件(くだん)
- 飯野文彦「私とソレの関係」. 井上雅彦(監修)『怪物團』東京 : 光文社, 2009.8.20 (光文社文庫 ; い31-30 . 異形コレクション ; 43), p. 391-412
- 井筒三郎「「あ」という文字は……」『翻訳の世界』8(4)(1983年4月号), p.78-79: [連載]「ことばの憑依体 : ことば不思議エッセイ」(1)
- 岩井志麻子「依って件のごとし」『ぼっけえ、きょうてえ』角川書店, 1999, p.159-214
- 内田百閒(1921)「件」
- 熊倉隆敏 #11「クダンノコト」. 熊倉隆敏『もっけ(勿怪)』(2). 講談社, 2003.3.20 (アフタヌーンKC), p.125-150
- 『幻想文学』56. アトリエOCTA, 1999.10.31: 特集「くだん、ミノタウロス、牛妖伝説」
- 小松左京(1968)「くだんのはは」:
- 小松左京『くだんのはは』角川春樹事務所, 1999 (ハルキ文庫), p.49-81
- →[漫画化]: 石森章太郎「くだんのはは」『別冊少年マガジン』1970年4月号
- 佐藤健二「クダンの誕生 : 話のイコノロジー・序説」(共同研究「民俗誌の記述についての基礎的研究」 : 調査をめぐる諸問題)『国立歴史民俗博物館研究報告』51, p.71-102 (1993)
→[加筆再録]: 佐藤健二『流言蜚語 : うわさ話を読みとく作法』有信堂高文社, 1995, p.147-209: 第4章「クダンの誕生」
- 鈴木棠三『日本俗信辞典. 動・植物編』角川書店, 1982
- 千葉幹夫(編)「全国妖怪語辞典」. 谷川健一(責任編集)『日本民俗文化資料集成』第8巻「妖怪」三一書房, 1988, p.393-517
- とり・みき「くだんのアレ」. とり・みき『事件の地平線』筑摩書房, 1998, p.121-182
- 野村純一「昔話と民俗社会 : 世間話から昔話へ」. 野村純一(編)『昔話と民俗』名著出版, 1984 (日本昔話研究集成, 3), p.2-30
- 堀部功夫「近代文学と伝統文化 : 百間「件」を例に」『日本近代文学』46号, p.56-57 (1992.5.15)
- 堀部功夫「「件」管見」『同志社国文学』41, p.216-224 (1994)
- 三浦秀宥『岡山の民間信仰』日本文教出版, 1977 (岡山文庫, 73)
- 水木しげる「くだん」『水木しげるの妖怪事典』東京堂出版, 1981, p.200-201
- 南博(責任編集)『近代庶民生活誌』4「流言」三一書房, 1985
- 柳田國男(監修), 民俗学研究所(編)『綜合日本民俗語彙』平凡社, 1955
- Hearn, Lafcadio(1894). Glimpses of unfamiliar Japan. 小泉八雲(平井呈一訳)『日本瞥見記』(上),(下). 恒文社, 1964 (全訳小泉八雲作品集, 第5巻,第6巻)
- 内田百閒(1921)「件」:
- 「 ... 。件(くだん)の話は子供の折に聞いた事はあるけれども、自分がその件にならうとは思ひもよらなかつた。からだが牛で顔丈人間の浅間しい化物に生まれて、こんな所にぼんやり立つてゐる。 ... 。
- ... 。件は生まれて三日にして死し、その間に人間の言葉で、未来の凶福を予言するものだと云ふ話を聞いてゐる。 ... 。」
- 小松左京(1968)「くだんのはは」:
- 「 ... 。くだんは件と書く。人牛を一つにしてくだんと読ませるのだ。くだんは時々生まれる事がある。 ... 。くだんは歴史上の大凶事が始まる前兆として生まれ、凶事が終ると死ぬと言う。そしてその間、異変についての一切を予言すると言うのだ。 ... 。」
- cf. とり・みき『事件の地平線』, p.135-136:
- 「小説『くだんのはは』には神戸で生まれたクダンが終戦を予言するくだりがある
- 小松左京さん御本人に直接うかがったところ ... そのエピソードは、当時神戸地方に実際に広まっていた噂話が元になっているとのことでした(※)
...
- ※小松氏によると「内田百間の『件』を知ったのはだいぶあと」のことだそうです。」
- 佐藤健二『流言蜚語』p.166:
- 「神戸地方では『件』が生まれ、自分の話を聞いた者は、これを信じて三日以内に小豆飯か『オハギ』を喰えば空襲の被害を免れるといったそうだ」
- cf. 南博(責任編集)『近代庶民生活誌』4「流言」, p.227:
- 「[昭和二十年三月二六日]
[流布者] 松山市本町三丁目 職工 井出時行 (二七)
[造言ノ内容] 神戸地方テハ「件」(ママ)カ生レ自分ノ話ヲ聞イタ者ハ之ヲ信シテ三日以内ニ小豆飯カ「オハギ」ヲ喰ヘハ空襲ノ被害ヲ免レルト言ツタ相タ」
[出所、原因、動機 伝播経路] 市内ニ於テ氏名不詳ノ通行人ノ雑談ヲ聞知シ自宅ニ於テ知人二名ニ洩シタルモノ
[反響処置] 憲兵説諭」
- 佐藤健二『流言蜚語』p.167:
- 「人間の頭をした牛の子が百年の間には必ず一頭は生まれるものじゃという伝説がある。これは要するに人間と牛との混血児らしいが、生後一週間しか生きていないものであって、その生きているうちに様々の予言をするが、その予言がまた恐ろしいほど的中するのであるから、何事によらず間違いのないことを件の如しといい、昔からの証文の末尾には必ずこの語句をつけて『証書仍而如件』と書いたものである。... 」
- 鈴木棠三『日本俗信辞典』, p.84下段:
- 「ウシ小屋のクモの巣を取ると家が壊れる、牛姦するとクダン(ウシの子で人語を解するもの)を生む(共に広島)。」
- 千葉幹夫(編)「全国妖怪語辞典」
- p.473[広島県]:
- 「クダン 動物の怪。人面牛身。稀に牛の仔として生まれ、数日しか生きない。その間、飢饉、干ばつ、戦争など重要なことを予言するが、必ず的中する(「民間伝承」二-六)」
- p.491[福岡県]:
- 「クダン 動物の怪。九州・中国地方でいう。牛の子で人語を解する。そのいうこと一言は正しい。「よって件のごとし」という俗説を生じている。多くは流行病や戦争の予言をする。生まれて四、五日しか生きない」
- cf. 柳田國男(監修), 民俗学研究所(編)『綜合日本民俗語彙』第2巻, p.490:
- 「クダン ... 牛の子で人語を解するもの。そのいうこと一言は正しい。よって件の如しという俗説を生じている。いまも九州・中國地方では時折り聞く。生れて四、五日しか生きていない。多くは流行病や戰争の豫言をする。」
- 堀部功夫「「件」管見」, p.218:
- 「 「件」の素材クダンは伝承中に存在する。
- 早くに豊島與志雄「『沈黙』の話」[注9] が紹介し、それに従う研究者もいた。しかし、近頃は<伝承と結びつかず>との判断(高橋英夫[注11])すなわち素材のクダン自体から百間の創造とみる説の勢が強い。それで私は「近代文学と伝統文化」('92・5・15『日本近代文学』)にクダン伝承の存在を報告し、注意を喚起した。けれどもいっこうに浸透していない。」
[注9: 昭8・4・1『経済往来』]
[注11: 「解説」(『冥土・旅順入城式』〔旺文社、'81・5・20〕)。これに川村二郎「牛人伝説」(昭58・4・1『海燕』)が<共感>を示すなど、影響力が大きい。]
- 三浦秀宥『岡山の民間信仰』:
- 「人の頭で身体は牛の形のものが生まれ、数日すれば死ぬけれどもその言葉には絶対に間違いがないという言い伝えは古く、どこそこにクダンが生まれてこういったという話は戦争前までは県北ではしきりにあった。そしてこのクダンの話の発生地は中国山地らしいというのであるが、今のところどうして件信仰が生まれたかわからない。」
(とり・みき『事件の地平線』p.160より再引用)
- Hearn. Glimpses of unfamiliar Japan. XXIII: From Hoki to Iki, V:
-
"It may remain like this for weeks. In the sixth month and in the beginning of the seventh, it is usually very quiet; it is not likely to become dangerous before the Bon. But there was a little squall last week at Mionoseki; and the people said that it was caused by the anger of the god."
"Eggs?" I queried.
"No: a Kudan."
"What is a Kudan ?"
"Is it possible you never heard of the Kudan? The Kudan has the face of a man, and the body of a bull. Sometimes it is born of a cow, and that is a Sign-of-things-going-to-happen. And the Kudan always tells the truth. Therefore in Japanese letters and documents it is customary to use the phrase, Kudan-no-gotoshi, 'like the Kudan,' or, 'on the truth of the Kudan.'"
"But why was the God of Mionoseki angry about the Kudan?"
"People said it was a stuffed Kudan. I did not see it, so I cannot tell you how it was made. There were some traveling showmen from Osaka at Sakai. They had a tiger and many curious animals and the stuffed Kudan; and they took the Izumo Maru for Mionoseki. As the steamer entered the port, a sudden squall came; and the priests of the temple said the god was angry because things impure -- bones and parts of dead animals -- had been brought to the town. And the show people were not even allowed to land; they had to go back to Sakai on the same steamer. And as soon as they had gone away, the sky became clear again, and the wind stopped blowing: so that some people thought what the priests had said was true. "
- ハーン (平井呈一訳)『日本瞥見記』(下), 第23章「伯耆から隠岐へ」五, p.283-284:
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「 「当分、まあこんなふうでしょうな。六月から七月の初めにかけては、毎年海は穏かなんです。まず盆前は危険になるようなことはないでしょう。もっとも、先週、美保の関にちょっとした突風がありましたが、土地の人にいわせると、神様がお怒りになったんで起った突風だそうです」
「ははあ、鶏卵(たまご)ですね?」とわたしくしは尋ねてみた。
「いや、クダンです」
「クダンとは何ですか?」
「クダンをご存知ありませんか? クダン(件(くだん))というのは、顔が人間で、胴体が牛でしてね。どうかすると、牛から生まれることがあるんですが、これが生まれると、何かが起る前兆なんですな。件というやつは、つねに本当のことしか喋らない。ですから、日本の手紙や証文には『依って件の如し』という文句をよく使いますが、あれはつまり『件のように真実をもって』という意味なんですよ」
「でも、美保の関の神さまが、なぜその件で怒られたのですか?」
「それがね、なんでも剥製の件だったそうでね。わたしは見ないから、どんなふうに出来ていたものか申しあげられないが、なんでも大阪から旅回りの見世物師が境へ巡業にきて、虎だの何だの、いろんな珍らしい動物をもってきたなかに、その剥製の件があったんですな。そいつをもって、出雲丸で美保の関へやってきた。と、汽船が入港したとたんに、にわかの突風です。神社の神主たちが、これはなにか不浄のものを――死んだ動物の骨か何かを町へ持ってきたから、神さまがお怒りになったんだというんで、香具師(やし)の連中は船から上陸することを許されずに、そのままその船で、境まで送り返されたそうでしてね。ところが、連中が行ってしまったら、とたんに天気が晴れて、風がぴたりとやんだもんだから、土地の人達は、やっぱり神主のいったことは本当だったと思ったというんですよ」
[林哲也]Last updated: 2009/11/28