大島筆記翻刻について ノートルダム清心女子大学 横山 學  ここに翻刻文を掲載した「大島筆記」は、次のものを底本として用いた。 一、内閣文庫「蒹葭堂」本「大島筆記」 全一冊 表題、書き題簽「大島筆記 完」。一帳十二行、一行約三十字。全百十三帳、一冊。 蔵書印としては、「蒹葭堂蔵書印」(右下)「編脩地誌備用典籍」(右上)「内閣蔵書」(そのやや左)「日本政府」(中央近辺)が首帳に、「浅草文庫」(右下)が次の帳目に押されている。[内閣文庫・和23769・1(1)・185/247]  蔵書印が示すように、本書は木村蒹葭堂(坪井屋吉右衛門・孔恭)の死後、所蔵していた蔵書を幕府が買い取り、その後「昌平坂学問所」に入ったものである。前述のごとく、本書の「附録」部は書写され、『日本生活庶民史料集成』「大島筆記」の「附録」部となっている。 二、ハワイ大学宝玲文庫・山田氏本「大島筆記」 乾坤 全二冊   一帳十行、一行約二二十二字詰。「大島筆記 乾」四十五帳、「大島筆記 坤」六十一帳。蔵書印は、首帳に「宝玲文庫」「風流罪過」「山田氏図書」がある。  本書には書写者による序文が冒頭に掲げられている。序文によれば、「文政四年抄冬写、五年首春題、男山清敬」とあり、文政四年に男山清敬により書き写され、五年に序文が添えられていることが知れる。 [内容構成]   「大島筆記 乾」 「序文」「目録」「琉人漂着次第」「琉球国躰」「人物風俗」            「年中大略」「官位之事」「朝服之事」「地名」「産物大様」            「琉語大略」   「大島筆記 坤」 「雑語上」「雑話下」 八、ハワイ大学宝玲文庫・「西荘文庫」本「大島筆記」 全三冊   一帳九行、一行約二十二字詰。「大島筆記 上」五十二帳、「大島筆記 下」七十四帳、「大島筆記 附録」四十七帳。蔵書印は、首帳には「宝玲文庫」のみ、表紙に「西荘文庫」と「四八八一」押印のラベルがある。表紙見返しに「(瓢箪の印)」、第三冊目の終帳に蔵書印「西荘文庫」がある。   [内容構成]    「大島筆記 上」 「目録」「琉人漂着次第」「琉球国躰」「人物風俗」「年中大略」「官位之事」「朝服之事」「地名」「産             物大様」「琉語大略」    「大島筆記 下」 「雑語上」「雑話下」    「大島筆記 附録」「附録」「再考」「図絵」「出会詩歌」「琉球歌」「琉球人和歌」「雨夜物語」「永峯和文」  この他にも、以下の「大島筆記」が確認されているが、全般に内容が同一ではなく、微妙な差異が認められる。内容についての詳しい校訂はなされていない。そこで筆者は総合的に判断し、翻刻の基準底本として内閣文庫の「蒹葭堂」本を用いて全文の翻刻を行い、「蒹葭堂」本に欠落した記述個所については他本で補った。さらにまた、複数の「大島筆記」がハワイ大学宝玲文庫に所蔵されており、それらの内で適当と思われる物2件を画像資料としてここに掲載する。さらに、その内の1件については全文を翻刻した。  一、京都大学図書館本「大島筆記」 三巻、全三冊  二、国立国会図書館「教授館」本「大島筆記」 全五冊  三、鹿児島県立図書館本「大島筆記」 全一冊  四、高知県立図書館「森氏文庫」本「大島筆記」 上中下三巻、全三冊  五、ハワイ大学宝玲文庫・伊藤本「大島筆記」 全四冊  六、ハワイ大学宝玲文庫・「西荘文庫」本「大島筆記」 全一冊  翻刻・掲載の原則は下記の通りとした。   1.底本は次の諸本である。   一、内閣文庫「蒹葭堂」本「大島筆記」 全一冊           【全文翻刻】   二、ハワイ大学宝玲文庫・山田氏本「大島筆記」 乾坤 全二冊    【全文翻刻】【画像資料】   三、ハワイ大学宝玲文庫・「西荘文庫」本「大島筆記」 全三冊    【画像資料】  2.翻刻に際して、帳面、行数、字数を原本に合わせた。  3.漢字の使用に制限が有り、現時点で漢字コードが与えられていないものについては、漢字を要素で分解し記号でそれを示した。    すなわち、「*王毒*」は、「王偏」に「毒」という文字であることを示している。  4.本文の割注は [ ] 記号でしめした。その結果行割に移動が生じた個所がある。  5.内容を判断して、句点を加えて読みやすくした個所がある。  6.原本において欠落している記述個所については、錯簡と判断し、異本で補い、そのことは注記している。  7.この全文翻刻は、琉球・沖縄研究の基本資料の提供を趣旨とするもので、準備中の『定本・大島筆記』ための一段階である。  8.この翻刻作業は、翻刻責任者である研究代表者横山學のほか、共同研究者知名定寛(神戸女子大学)・末次智(四條畷女子短期   大学)があたり、作業には蔵岡宏恵・石井雅美・室山京子らの補助を得た。  9.本研究については、次の論文において発表する。    横山 學「琉球国船漂着記録「大島筆記」諸本の研究」        『生活文化研究所年報』第11輯、ノートルダム清心女子大学生活文化研究所        連絡先:FAX 086-256-6427 drmanabu@da2.so-net.or.jp  10.本文・画像の利用に際しては、研究の趣旨を理解して、典拠・所蔵個所を明記すること。