スキー場植生の植物社会学的研究

本研究は我が国のスキー場の植生の現状を植物社会学的に明らかにし,その成立要因,とくに人 為及び土壌について明らかにすることを目的としたものである。現存する約600個所のスキー場の 内,地域,開設年,人為等の予備調査結果に基き全体をカバーするような配慮のもとに49個所のスキー場を選び,植物社会学的方法によって植生調査と人為の調査をした。また,20スキー場では合 計90スタンドの土壌断面調査を行なった。
 49スキー場のそれぞれにおいて,種組成に基く植生単位を識別した。それらは低木林,ササ草原, 高茎広葉草原,ススキ草原,シバ草原,疎生低木林,踏み跡植生,人工牧草地など,いろいろな相 観をもった多様な植生単位であった。これらの単位を識別種により亜群集,変群集等への細区分, また標微種により群団,オーダー,クラスへ統合し,階級的に取扱った。
 土壌に関しては20スキー場90スタンドについて森林の伐採,土壌撹乱など人為の程度によって,
1)自然土壌クラス(褐色森林土,黒色土等)を,(1)林地相,(2)伐採地相,(3)崩積相,(4)削剥相に,
2)人工土壌クラスを,(1)人工盛土,(2)人工未熟土に区分するとともに土壌硬度,A層の厚さ,有 効土層厚等を測定し,植生との関連を見る基礎データとした。これによりスキー場ごとに識別した 植生単位のそれぞれについて,成立要因,とくに土壌との関係を調べ,いずれもスキー場造成時の 土工法,すなわち土壌の撹乱(ブルドーザー,人力等)によって植生の成立が強く規定されている ことが判明した。造成時の人為が植生の対し,また土壌に対しても大きな規制力をもち,さらに造 成後,植生は土壌によって永続的な規制を受けるため,結局,植生は直接,間接に人為(土工法, 刈払い等)によって規定されることを示した。この植生と土壌との対応を,4スキー場について植 生図と土壌図を重ね合わせて検討し,明確に表示した。
 各スキー場で識別した地域的な植生単位を類似した植生タイプごとにまとめ,広域的な種組成を 検討した。その結果,下記の7クラス,8オーダ,8群団(未決定上級単位を含む),3群集(6 亜群集),9群落(5下位単位)を識別した。
  1.ミヤマキンポウゲ---------ダケカンバクラス
   1)ミヤマハンノキ--------オオバタケシマランオーダー
   (1)ダケカンバ----------ミドリユキザサ群団
    (i)ダケカンバ--------マイヅルソウ群落

 
  2.ススキクラス       
   1)ススキオーダー
   (1)ススキ群団
    (i)ススキ-------------ヒヨドリバナ群落
    (ii)ススキ------------ヒメハギ群落
    (iii)タニウツギ-------ワラビ群落
   2)シバスゲオーダー
   (1)シバ群団
    (i) シバ--------------ホソバヒカゲスゲ群落
    (ii)シバ--------------イタドリ群落
    (iii)シバ-------------メドハギ群落


  3.ノイバラクラス
   1)オーダー未決定
   (1)群団未決定
    (i)クマイチゴ---------タラノキ群集


  4.オオヨモギ---------------オニシモッケクラス
   1)オオヨモギ------------オオシモッケオーダー
   (1)オオイタドリ--------オオヨモギ群団
  [新記載](i)エゾイチゴ-----アキタブキ群集


  5.オノエヤナギクラス
   1)オーダー未決定
   (1)群団未決定
  [新記載](i)バッコヤナギ---ヤマハハコ群集


  6.オオバコクラス
   1)オオバコオーダー
   (1)群団未決定
    (i)オオバコ-----------シロツメクサ群落


  7.クラス未決定
   (1)オーダー未決定
    (i)クマイザサ--------アキノキリンソウ群落

 エゾイチゴ----アキタブキ群集とバッコヤナギ----ヤマハハコ群集は本研究によって初めて明ら かにされた新群集である。
 20スキー場,90スタンドの土壌調査結果と同スタンドの植生及び人為のデータとの相関分析の結 果,草本層の高さ,出現種数,階層数など植生の構造的な項目が土壌硬度,A層の厚さ,土壌タイ プと高い相関があった。重回帰分析の結果,11の植生タイプ(自然林,二次林,人工林,密生低木 林,ササ草原,ススキ草原,シバ草原等)の成立には人為タイプ指数(森林伐採・下刈り,薄い盛 土,浅い切土,厚い盛土,深い切土),土壌群指数(自然土壌・人工土壌X褐色森林土,黒ボク土, 赤色土),土壌硬度の順で寄与していた。
 それぞれのスキー場の植生を植生複合体とみなし,特徴的な群落群の有無によって識別した植生 複合体群という新概念を考案してスキー場の群別を試み,(1)エゾイチゴ-----アキタブキ群集,バッ コヤナギ-----ヤマハハコ群集,エゾイチゴ亜群集→北海道,(2)ススキ----ヒヨドリバナ群落タニウ ツギ下位単位=クマイチゴ------タラノキ群集,ヒメモチ亜群集→東北・北陸,(3)クマイチゴ--タ ラノキ群集,ヨモギ亜群集→北関東,(4)ススキ----ヒメハギ群落=ススキ----ヒヨドリバナ群落イ タドリ下位単位→中国,四国,九州に群別され,それぞれの地域性が明らかになった。また,ス キー場の各種の植生タイプの種組成は当該地域の典型的な種組成からひずみがあることを示し,こ れは「刈払い」の効果が大きいと推測された。スキー場植生単位はミクロには人為や土壌への対応 を示し,マクロな植生単位は気候や地域,フロラ背景などに対応していることを植物社会学的方法 により初めて明らかにした。
 本研究の成果の活用は,(1)スキー場開発の際のアセスメント。すなわち,造成後の全体,また部 分での成立植生の予測が可能であり,可級的自然性の高い植生成立へ造成方法(土工法,表土保持, 切土,盛土等)を指示することができる。(2)スキー場の植生管理計画。スキー場の群落リストを利 用し,対象地での成立可能な群落構成が予測できる。
これに従い,冬期,夏期の土地利用目的に沿った目標群落を決め,ゾーニング,手入法を定める。

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Last updated: 1999/07/07