本を語る会 (第15回)

分類とは何か

日時: 1995年6月22日(木) 17:30-18:30
担当者: 林 哲也
0. 前口上
1. 生物分類
2. 「客観的」分類の不可能性
3. 言葉と物
4. 民話の分類
5. 「分ける」こと「わかる」こと
参照文献

0. 前口上
 『日本十進分類法』新訂9版の刊行が待ち遠しい今日この頃です。
 標準分類表の新しい版が刊行されたら、筑大図も、直ちに速やかに切り替えるのが良い、と私は思うのですが、事はそれほど単純ではないのだよ、という声も聞かれます。
 純粋に「客観的」な分類の、原理的な不可能性が、「みにくいアヒルの子の定理」によって論理的に証明されてしまっている以上、あらゆる利用者の要求を満足させるような理想的な分類法を目指すよりも、便宜的な符号、レッテル貼りと割り切って、標準分類表を、(気に入らない箇所が多少あっても、)採用するのが得策ではないか、と思うのですが。
 いずれにせよ、この機会に、「分類」というものの本質について、考えてみたいと思います。
 また、民話の分類、生物分類、言葉と物の関係等についても言及します。

1. 生物分類
1.1. 用語の確認

新村出(編)『広辞苑』第4版:
「 【分類学】生物を分類する学。生物学の基礎をなし、博物学の主要分科として発達した。」
*図書の分類などというものは、通常の国語辞典では言及されていないらしい。
(NDC)                              (生物分類)
                                     界  kingdom
  類                class      門  division(植物)/phylum(動物)
  綱                division     綱 class
  目                section          目 order
  細目(分目, 厘目) subsection       科 family
                                     属 genus
                                     種 species
*類・綱・目といった用語は、生物分類を手本としているようにも見えるが、用語の階層関係等、並行していない。

 cf. 筑波大学: 部(department), 課(division), 係(section)

1.2. 分類の論理

馬渡峻輔『動物分類学の論理』, p.64:
「 ... . 近代科学の目で見ると伝統的分類法に基づく分類学は欠陥だらけであった. 研究者によって重みづける形質が異なり, 提唱する分類体系も異なる.
   伝統的分類法は客観的でも科学的でもない. こうした批判は, 1950年代以降になって新しい体系分類法を2つ生み出した. 表形分類法と分岐分類法である.
   その後, 伝統的分類法は2つの分類法の一部を取り入れ, 進化分類法と名を変えて現代に生き残っている.
 ... . 現代の多くの分類学者は3つの分類法のうちのどれかひとつを実践している. 」
馬渡峻輔『動物分類学の論理』, p.7:
「 ... . 一般論として, 体系を作るにはいくつかの基本的な約束事を守る必要がある. ... (1)体系を構成する単位は互いに等価であること, (2)その単位は離散的な存在であること, そして(3)体系を作る基準, 尺度はただひとつであること, の3点である.
... . (2)の離散的存在とは, ... 中間がなく境界にはっきりと線が引けるものを指す. 」
1.3. 記述の方法論

Hjelmslev(林栄一訳述)『言語理論序説』, p.7:
「  ... 記述は自己矛盾がないこと(self consistent)、遺漏のないこと(exhaustive)、可能な限り簡潔であること(as simple as possible)... 。
   矛盾がないという要請は遺漏のない記述という要請に優先し、遺漏のない記述という要請は簡潔であるという要請に優先する。」
1.4. 情報の分類

野口悠紀雄『「超」整理法』, p.10-11:
「   情報の分類ができない第一の理由は、「こうもり問題」、つまり、どの分類項目に入れてよいか分からない、ということにある。これは、つぎの場合に発生する。
 ○1. 複数属性
 第一は、対象となる資料が、複数の内容または属性をもっている場合である。
... 。
 ○2.境界領域
 ... 単一属性であっても、連続的に変化するもののグレイゾーン(境界領域)
... 。
 ○3.タテヨコ分類
 ... タテの分類軸とヨコの分類軸が共存 ... 」
cf. Benedon <records management>

cf. 『日本標準商品分類』昭和50年3月改訂:
   「中分類92−印刷物、レコード及びその他の記録物」
   「中分類93−文具, 紙製品, 事務用具及び絵画用品」

2. 「客観的」分類の不可能性
2.1. みにくいアヒルの子の定理

池田清彦『分類という思想』, p.89:
「   分類に使う形質という分類基準はどんなものでも人間の認知によって選ばれたものである。だからどんな分類基準を使っても、すでにして人間が選んだ以上、それを使う分類がア・プリオリに客観的であることはない。」
池田清彦『分類という思想』, p.92:
「   人間の認知パタンから自由である限り、すべての対象は同じ位似ている。
... 。このことを厳密に証明したのは渡辺慧で、アヒルと白鳥の間の類似度も、二羽の白鳥の間の類似度も同じことから、これを「みにくいアヒルの子の定理」という(たとえば、渡辺慧『知るということ−−認識学序説』、東大出版会などを参照)。」
池田清彦『分類という思想』, p.94:
「人間の認知パタンから独立した客観的な性質をことごとく選んで、それらを等価とみなす限り、そもそも分類という営為は成立しないのである。逆に言えば、分類することは重要な基準を選ぶこと自体なのだ。ア・プリオリに重要な基準などはない。従って分類することは世界観の表明であり、思想の構築なのである。」
2.2. <プロクルーステースの寝台>としての分類表

高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』, p.223左:
プロクルーステース Prokrustes, Προκρουστηs
   ダマステース, ポリュペーモーン Polypemon, プロコプタース Prokoptas とも呼ばれている. 彼はメガラからアテーナイへの道に住んでいた強盗で, 旅人を自分のベッドに無理矢理に(damazein)寝かせ, 彼の身長が短かすぎる時には彼を叩き延ばす(prokrouein)か, 重しをつけて引き延ばし, ベッドが短かすぎると, 身体の端を切り落し(prokoptein)て, ベッドに合わせ, 旅人に大きな苦痛(polypemon)を与えたので, この名がある. 彼はテーセウスに退治された.
*事物は通例、複数(多数)の属性を持っている。
    ある特定の観点から見たひとつの相を特権的に重視し、他の諸相を切り捨てる(軽視する)ことによって、分類という営為は、ようやく可能となる。

佐野眞『自分だけのデータ・ファイル』, p.67:
「分類というと「分ける」ことを意識しがちですが、むしろ「集める」ことに主眼があります。一見同じことのように見えますが、その作業をするときの意識はまるで違います。意味のあるグループを作ることを考えるのです。」
*分類とは、種差によって分けることではなく、類同によってまとめることである。

2.3. 構造主義/文化人類学

*客観的な区分の可能な世界が、あらかじめ実在するのではなく、主観が世界に作用することにより、はじめて認識が可能となる。
 cf. 丸山圭三郎 <身分け>, <言分け>

若林幹夫『地図の想像力』1995, p.52:
「 ... 概念やイメージとしての地図が表現する世界とは、「世界そのもの」などではなく「人間にとっての世界」、人間によって見られ、読み取られ、解釈された「意味としての世界」であるということだ。それは、ある社会で人びとが世界や社会を見る見方を表現した集合的な表象なのだ。」
*言語あるいは文化が世界の見え方を規定する。
 cf. 言語相対論、Sapir & Whorf <サピア=ウォーフの仮説>

*文化相対論。世界を認識する枠組は、文化毎に異なる。
cf. Levi-Strauss <野生の思考>; Needham ; Harris
    髪 hair  髪を刈る
    頭 hair  頭を刈る
    頭 head  頭を叩く
    首 head  首狩り族(head hunters)
    首 neck  首飾り(necklace)
若林幹夫『地図の想像力』, p.53:
「「科学的」で「客観的」な地図の存在を支えている「科学」や「客観」も、それが世界を記述し理解するための記号による意味の体系であるという点では「神話」や「主観」と変わりがないのだ。」
*学問分野の枠組も変化する: cf. Kuhn <パラダイム・シフト>
*認識能力の疾患としての失語症: Jakobson ; Sacks

3. 言葉と物

Borges (1952). "El idioma analítico de John Wilkins" (Obras completas 1923-1972, p. 708):
... doctor Franz Kuhn atribuye a cierta enciclopedia china que se titula Emporio celestial de conocimientos benévolos. En sus remotas páginas está escrito que los animales se dividen en (a) pertenecientes al Emperador, (b) embalsamados, (c) amaestrados, (d) lechones, (e) sirenas, (f) fabulosos, (g) perros sueltos, (h) incluidos en esta clasificación, (i) que se agitan como locos, (j) innumerables, (k) dibujados con un pincel finísimo de pelo de camello, (l) etcétera, (m) que acaban de romper el jarrón, (n) que de lejos parecen moscas.
    Kuhn, Franz, 1889-1961: 中国文学翻訳家。
    Kuhn, (Franz Felix) Adalbert, 1812-1881: インド・ゲルマン語学者, 神話学者 ではない。

Foucault『言葉と物』, p. 13:
「ところで、そのテクストは、「シナのある百科事典」を引用しており、そこにはこう書かれている。「動物は次のごとく分けられる。(a)皇帝に属するもの、(b)香の匂いを放つもの、(c)飼いならされたもの、(d)乳呑み豚、(e)人魚、(f)お話に出てくるもの、(g)放し飼いの犬、(h)この分類自体に含まれているもの、(i)気違いのように騒ぐもの、(j)算えきれぬもの、(k)駱駝の毛のごく細の毛筆で描かれたもの、(l)その他、(m)いましがた壷をこわしたもの、(n)とおくから蝿のように見えるもの。

 ... 訳注 ホルヘ・ルイス・ボルヘス『続・審理』(1952年)所載のエッセー「ジョン・ウィルキンズの分析言語」よりの引用。」
「ジョン・ウィルキンズの分析言語」. J.L. ボルヘス著 ; 中村健二訳『続審問』岩波書店, 2009.7.16 (岩波文庫 ; 赤792-3), p. 181-187
「フランツ・クーン博士が『善知の天楼』なる中国の百科辞典について指摘したのと同じ特徴を思いおこさせる。この遥か彼方の書物では、動物は次のように分類されているのである――(a)皇帝に帰属するもの、(b)芳香を発するもの、(c)調教されたもの、(d)幼豚、(e)人魚、(f)架空のもの、(g)野良犬、(h)この分類に含まれるもの、(i)狂ったように震えているもの、(j)無数のもの、(k)駱駝の繊細な毛の絵筆で描かれたもの、(l)その他のもの、(m)花瓶を割ったばかりのもの、(n) 遠くで見ると蝿に似ているもの。」(p. 184-185) 
Borges. "El idioma analíqtico de John Wilkins" (Obras completas 1923-1972, p. 708):
「   ブリュッセルの書誌学協会も混沌たる分類をおこなっている: 森羅万象を1000の細目に区分し, その262番は教皇に対応し; 282番はローマ・カトリック教会に; 263番は安息日に; 268番は日曜学校に; 289番はモルモン教に, そして294番はバラモン教, 仏教, 神道, 道教に。異質なものの混在した区分項目も回避していない。たとえば, 179番は:「動物虐待. 動物保護. 倫理の観点から見た決闘・自殺. 諸種の悪徳・欠点. 諸種の美徳・長所. 」である。」
cf.『国際十進分類法』(UDC)

佐野眞『自分だけのデータ・ファイル』, p.69:
「   既成の分類表は、多くの場合、あらゆる資料を対象にしており、学問の体系を基本にしてはいるのですが、内容というより「内容(情報)の入れ物」としての資料を分析して、既存資料群の中に加えてゆくために、適切な配架位置を決めることが第一の目的ですから、学問分類とは必ずしも一致しないのです。
   これが研究者に評判が悪いのは、研究者の学問体系というものは学問領域で合意されている共通の体系はあるとしても、実は研究者一人ひとりが発見する自分自身の方法論と同じ意味を持つものであって、それは本という形あるものではなくて、概念の分類だからです。」
4. 民話の分類

Aarne-Thompson の Type index と Motif-index

稲田浩二[ほか]編『日本昔話事典』弘文堂, 1977:
「『昔話の型』 ... The Types of the Folktale. 米国のトンプソン S. Thompson によってまとめられた昔話の(タイプ)の索引である。... もとは1910年にフィンランドの学者,アールネ A.A. Aarne がまとめた『昔話の型目録』Verzeichnis der Märchentypen (FFC3)を,1928年にトンプソンが英語に翻訳すると同時に,増大したものである。1961年さらに改訂され増補されて現在に至っており,アールネ−トンプソン・タイプ・インデックスとして世界の昔話研究者の共通のよりどころとなっている。この種の索引の必要性を初めに認めたのは,アールネの師であり,比較昔話研究の父である,フィンランドのクローン K. Krohn である。彼は熊と狐の競争譚の外国における類話を集める際に困難をおぼえたことから,アールネにタイプ・インデックスの作成をすすめたのであった。 ... 。 ... トンプソンは ... ,別に『民間文芸モチーフ索引』The Motif-Index of Folk Literature を完成させている ... 。」(p.926-927)
「『民間文芸モチーフ索引』 ... Motif-Index of Folk-Literature. ... 米国のトンプソン S. Thompson 1人の手になるもので,1932〜36年に初版 ... 。」(p.907)
   大塚英志『システムと儀式』本の雑誌社, 1988, p.161:
「  ... ウラジミール・プロップ『民話の形態学』に始まるこの研究は、物質が原子記号の組みあわせからなる化学式で記述できるように、民話を含めた<物語>を<機能>と呼ばれる最小単位(いわば原子に相当)の組みあわせで記述し、分類しようとする試みである。」
5. 「分ける」こと「わかる」こと

   cf. 坂本賢三『「分ける」こと「わかる」こと』

大島弓子「ギャザー」, p.108:
    グリン: 「人間の漢字見て あたしこの前 発見したわ」
    モルド: 「なにを?」
    グリン: 「"分ける"と "分かる"は 同じ字だと いうこと
              団体に 未来は ないのよ」

*語構成要素への分解:
    例)マニキュア   マニュアル      マニュスクリプト
      mani-cure     manu-al        manu-script      
     手を-世話する  手- (形容詞派生語尾)  手で-書かれた 
              手動の, 手引書
       cf. main-tenance
	   手で-保持すること
*未知の対象に出会ったとき、それを分析・分解する(「分ける」)ことにより、既知の構成要素・部品の組合せとして把握することができたとき、「分かった」と感じられる。

ただし、
Saussure『一般言語学講義』, p.184:
「 ... 辞項ぜんたいの価値はけっして部分の総和と等しくはない ... 」
*たとえば、understand「理解する」という語義は、under「下に」 と stand「立つ」の意味を足し算しても、出てくるものではない。

*語源学(etymology):
   語源に遡り、原義を知れば、「真」なるもの(etymos)が判明する、という論理(logos)。

Saussure『一般言語学講義』, p.183:
「 ... 相対的有縁化(motivation relative) ... 」
Saussure『一般言語学講義』, p.184:
「 ... 言語の体系はすべて, 記号の恣意性という・まんいち無制限に適用さ れたならばこの上ない紛糾をもたらすに相違ない不合理な原理にもとづくもの であるが, さいわいにして精神は, 記号の集合のある部分に秩序および規則性 の原理を引き入れてくれるのである; これこそ相対的有縁の役割にほかならな い. 」
Levi-Strauss, Claude. La pensee sauvage. p.16:
「... le classement, quel qu'il soit, possedant une vertu propre par rapport a l'absence de classement. 」
(大橋保夫訳)『野生の思考』, p.13:
「... 分類整理は、どのようなものであれ、分類整理の欠如に比べればそれ自体価値をもつものである。」

参照文献
Last updated: 2013/10/18