II. 「段階論」の成立

 東北帝国大学での宇野は、『資本論』をできる限り「政策論」の講義に利用する。これが当時の宇野の基本的なスタンスであった。
 宇野は、日本資本主義論争での講座・労農両派の『資本論』から直接に現状を分析するという方法に疑問を感じていた。彼は、『資本論』を独自の視点で読み直す一方、リストやブレンターノなどの学説を批判的に検討して、独自の「資本主義の世界史的発展段階」論としての経済政策論を展開した。
 宇野『経済政策論』は、資本主義の歴史的発展過程を「発生期」、「成長期」、「爛熟期」に分ける。その上で、宇野は、それぞれの時期の支配的資本とそれに対応した経済政策論が展開されるとして、重商主義 - 自由主義 - 帝国主義という三つの段階を抽出、体系化した。経済政策論は単なる政策主張の学ではなく、むしろ政策の客観的根拠を解明するものではないかということが、当時の宇野のテーマであった。『經濟政策論 上』(1936)はその一つの結論である。

8. 法政大学大原社会問題研究所編 日本社会運動史料 機関紙誌篇 「労農派」機関誌『労農』(7) 法政大学出版局,1974 [参考出品]   所蔵情報
 東京帝国大学に入学した宇野は、向坂逸郎と知り合い、以後互いに親交を結ぶ。
 向坂や櫛田民蔵が雑誌『労農』において(いわゆる労農派)、山田盛太郎、羽仁五郎ら『日本資本主義発達史講座』(岩波書店)の執筆者達(いわゆる講座派)と日本資本主義論争を展開していた間、宇野は「資本主義の成立と農村分解の過程」(『中央公論』1935年11月)などを書き、独自の三段階論の視点を次第に明確にしていった。
9. 『日本資本主義発達史講座』(1) 岩波書店 [参考出品]   所蔵情報
10. 山田盛太郎 『日本資本主義分析』 岩波書店,1934,初版第1刷   所蔵情報  *本学所蔵は1966年第16刷(宇野文庫-901)
11. 宇野弘蔵・山田盛太郎 『資本論體系』 中巻 (經濟學全集 第11巻) 改造社,1931 [参考出品]   所蔵情報

*「段階論」関連

12. ノート「社会党の関税論」   所蔵情報
13. ノート「社会党の関税論」   所蔵情報
14. 論文「貨幣の必然性」 (宇野 『資本論の研究』 岩波書店,1949,初版第1刷に所収)
15. 宇野弘蔵 『經濟政策論』 上巻 弘文堂,1948,第3版   所蔵情報
  『經濟政策論 上』には、資本蓄積の様式を説いた「三段階」論のうち、「重商主義」と「自由主義」が説かれている。しかし、第二次世界大戦の勃発による思想統制の強化により、「帝国主義」をその内容とする下巻の出版は不可能になった。それが日の目を見るのは戦後になる。
16. ノート「經濟政策論 I」   所蔵情報
17. ノート「帝國主義 IV:資本の輸出・イギリス産業」   所蔵情報
18. ノート「經濟政策論特別講義 昭和十二年度 イギリスに於ける企業の結合」   所蔵情報
19. 宇野弘蔵 『經濟政策論』 (經濟學全集 IX) 弘文堂,1957,第8版   所蔵情報
20. 手稿:「ナチス広域経済の研究」として降旗節雄氏が『クライシス』に掲載したもの   所蔵情報
21. 宇野弘蔵 『経済政策論』(改訂版) 弘文堂,1971,第2刷   所蔵情報

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