出品目録

a.東洋の使徒フランシスコ・サビエル
b.天正少年使節と『原マルチノの演説』
c.キリシタン研究と南蛮趣味
d.特別展示
    注: (B-)は ベッソン・コレクション叢書番号、
     (Bo-) は Boscaro, Adriana (1973) Sixteenth century European printed works on the first Japanese mission to Europe : a descriptive bibliography. Leiden : E.J. Brill.  の書誌番号。

a.東洋の使徒フランシスコ・サビエル

  サビエルに関する同時代の文献は、没後42年目に出版されたトルセリーニによる伝記a-1.が最も広く普及しており、
  その増補版a-2.とともに諸国語に訳され、数十種類を数える。1622年にサビエルが聖人に列せられてからは、
  さらに多くの伝記や研究書が出版された。
a-1.
トルセリーノ著(Torsellino, Orazio, 1545-1599) 『フランシス コ・サビエル伝』ローマ、1594.(B-5) 所蔵情報
著者はイエズス会員でローマ大学のラテン語教授。サビエルに関する最も著名な伝記。諸国語に訳され版を重ねた。
a-2.
トルセリーノ著『フランシスコ・サビエル伝 : 付サビエル書簡集』ローマ、 1596.(B-6) 所蔵情報
a-1.の改訂増補版。口絵に収められたテオドール・ガルによるサビエルの肖像は、 その後のサビエル像の原型となった。
a-3.
トルセリーノ著『フランシスコ・サビエル伝』ドゥアイ、1608. (B-10) 所蔵情報
a-2. のフランス語訳版
a-4.
ルセナ(Lucena, Joao de, 1550-1600)著『フランシスコ・サビエル伝』リスボン、 1600.(B-24) 所蔵情報
a-1.の6年後に出版された大部のサビエル伝。 巻頭の口絵に見開きで2点のサビエル像を収める。
a-5.
トリゴー著『カスパール・ベルゼ伝』ケルン、1611.(B-27) 所蔵情報
サビエルの同僚ベルゼ(Berse,Kaspar, S.J.,1515-1553)の伝記。 ケルンのイエズス会学校の旧蔵本で、革装の表紙に会章が空押しされている。
a-6.
『著名イエズス会員一覧』リヨン、1627.(B-30) 所蔵情報
ロヨラとサビエルの列聖を記念して出版されたイエズス会主要会員簿。 第2部に殉教者録を収める。
a-7.
ジンナロ編『東洋の使徒サビエル伝』ナポリ、1641.(B-34) 所蔵情報
4部作を1冊に合冊。「日本布教地図」を収める。
a-8.
『聖フランシスコ・サビエル伝』アルトウェルペン、1663.(B-40) 所蔵情報
世界地図、日本地図のほか、サビエルの5つの奇跡を描いた挿絵等を収める。
a-9.
『聖フランシスコ・サビエル絵伝』 [ウィーン?,16--](B-53) 所蔵情報
出版年は不明だが、サビエルの絵伝としては初期のもの。
a-10.
カストネル(Castner, Gaspar, 1665-1709)著『東洋の使徒聖サビエル墓誌』 [北京?,1700?](B-58) 所蔵情報
1700年に中国の上川島に作られたサビエルの墓誌。唐紙に木版で刷られた袋綴本。墓の平面図等、図版3図を収める。
a-11.
カロン(Caron, Francois, ca.1600-1674)、スホウテン(Schouten, Joost, d. 1653) 編『日本、シャム王国誌』ニュルンベルク、1663.(B-311) 所蔵情報
カロンは平戸オランダ館長。1648年に『日本大王国志』を刊行。 本書はその合冊本。
a-12.
アーノルド(Arnold, Christoph, 1627-1685)編『日本、シャム朝鮮王国志』ニュルンベルク、1672.(B-297) 所蔵情報
a-11. に基づく改編増補版
a-13.
ボテロ(Botero, Giovanni, 1540-1617) 著『世界地誌』 ヴィセンツァ 1595.(B-308) 所蔵情報
a-14.
モンタヌス(Montanus, Arnoldus, 1625?-1683)著 『オランダ東インド会社日本帝国遣使紀行』パリ、1680.(B-334) 所蔵情報
著者はアムステルダムのラテン語学校長。オランダ東インド会社が日本に遣わした使節の見聞を収める。本書はフランス語訳版。
a-15.
吉浦盛純編『サヴィエル絵伝』[19--]
サルヴァトーリ編『サビエル絵伝』ローマ.1793. の複製。25点の複製版画を収める。

b.天正少年使節と『原マルチノの演説』

  ボスカロの調査(参考1.) によれば、16世紀に出版された天正少年使節に関する文献は78点に及び、
 そのうちの49点が使節が教皇に謁見を賜った1585年に出版されている。ベッソン・コレクションでは
 基本史料とされるb-1.を始め、使節に関する最も浩澣な同時代の史料b-10. など、19点の文献を所蔵している。
  またローマからの帰路インドのゴアで使節が出版に関与した『原マルチノの演説』b-15. は、
 現在、世界で4冊しか所在が確認されていない稀本である。
b-1.
『日本使節グレコリオ13世謁見記』ローマ、1585.(B-67,B-68)(Bo-2) 所蔵情報 所蔵情報
教皇グレコリオ13世による使節謁見の基本史料。教皇に宛てた九州三侯の書状、ガスパル・ゴンザレスの演説、教皇名代アントニオ・ボッカパズーリの答辞を収める。E.サトウ旧蔵本(B-68)。
b-2.
『日本使節グレコリオ13世謁見記』ミラノ、1585.(B-69)(Bo-5) 所蔵情報
b-1.の異版。
b-3.
『日本使節グレコリオ13世謁見記』ルウアン、1585.(B-73) (Bo-13) 所蔵情報
b-1.のルウアン版(Bo-12) に、使節の動向を伝えるローマからの手紙を添えた増補版。
b-4.
『日本使節グレコリオ13世謁見記』ローマ、1585.(B-66)(Bo-16) 所蔵情報
b-1.のイタリア語版。
b-5.
『日本使節ローマ入城記』アウグスブルク、 [1585].(B-70)(Bo-32) 所蔵情報
b-1.のドイツ語訳版。
b-6.
『日本遣欧使節記』1585.(B-71)(Bo-33) 所蔵情報
b-1.のドイツ語訳増補版。
b-7.
『日本遣欧使節記』1586.(B-72)(Bo-53) 所蔵情報
b-1.のドイツ語訳増補版(Bo-33) の再版。
b-8.
『日本使節ローマ入城を付した日本小記』ローマ、1585.(B-74)(Bo-36) 所蔵情報
日本の習慣に関する短い記事と、トスカーナ公に献じられた贈答品の目録を収める。
b-9.
『日本使節ヴェネツィア歓迎記』ヴェローナ、1585.(B-75)(Bo-45) 所蔵情報
同年6月25日に行われたサン・マルコ広場の行進の記録、ヴェネツィア総督宛の使節の感謝状、ヴェネツィア共和国と使節とのあいだで交わされた贈答品の目録を収める。
b-10.
グァルティエリ(Gualtieri, Guido)著『日本使節記』ローマ、1586. (B-76)(Bo-48) 所蔵情報
同時代に刊行された使節に関する最も詳細な著作。巻末にb-1.のイタリア語訳、九州三侯に宛てたシスト5世の返書を収める。
b-11.
グァルティエリ著『日本使節記』ヴェネツィア、1586. (B-77)(Bo-49) 所蔵情報
b-10. の異版。
b-12.
グァルティエリ著『日本使節記』ミラノ、1587.(B-78)(Bo-54) 所蔵情報
b-10. の再版。
b-13.
グァルティエリ著『日本使節記』ディリンゲン、1587. (B-79)(Bo-55) 所蔵情報
b-10. のドイツ語訳版。
b-14.
ペルピーニャ(Perpina, Pedro Juan, 1530-1566)『講演集; 付日本使節記』トリノ、1588.(B-80) 所蔵情報
b-15.
『原マルチノの演説』ゴア、1588.(B-1) 所蔵情報
1857年にインドのゴアで、ヨーロッパから戻った日本人使節の一人、原マルチノが、使節の派遣を企画したヴァリニャーノに感謝して行った演説。日本人コンスタンチーノ・ドーラードが印刷し演説が行われた翌年に出版された。
b-16.
サンデ(Sande, Duarte de, 1531-1600) 訳『遣欧使節対話録』天理大学出版部、1976 (マカオ、1590. 刊の複製)
ヨーロッパから帰国した4名の使節が、日本の友人を交え、対話形式で語った旅の見聞。ただし、出版当時、使節はまだ帰国していない。本書は幸田成友旧蔵、現天理図書館所蔵本の複製。
b-17.
マルティネス(Martinez, Pedro, 16th cent.) 他著『東西インド布教比較:付日本使節帰朝記』ローマ、1592.(B-81) 所蔵情報
使節の帰朝について千々石ミゲル、有馬晴信、大村喜前の書簡等を収める。1593年異版(B-82)有り。 所蔵情報 パリの製本家G.ゴーシェ(1907〜)によるモロッコ革総革装。
b-18.
『日本使節関係ローマ聖庁会議録他』ドウアイ、1593.(B-83)(Bo-75) 所蔵情報
b-1.のフランス語訳、使節の動向を伝えるローマからの手紙、原マルチノと大村純忠のエヴォラ侯宛の書簡、大村喜前と有馬晴信のシスト5世宛の書簡等を収める。当コレクションのみの所蔵。
b-19.
チアッピ(Ciappi, Marc'Antonio)著『グレコリオ13世伝』ローマ 1596.(B-84) 所蔵情報
日本関係記事のほか、日本のカーサ、コレジオ、セミナリヨの図 および使節謁見の図を収める。  
b-20.
コリャード(Collado, Diego, ca. 1589-1641) 著『日本語文典』 ローマ、1632.(B-2) 所蔵情報
著者はドミニコ会日本管区長代理。以下2点とともにコリャード三部作と呼ばれる。  
b-21.
コリャード著『羅西日辞典』ローマ、1632.(B-3) 所蔵情報
キリシタン版『羅葡日辞典』に基づくが、新収語彙も収める。  
b-22.
コリャード著『日本懺悔録』ローマ、1632.(B-4) 所蔵情報
日本人信徒の告解をラテン語とローマ字邦文で収める。
b-23.
カルディム(Cardim, Antonio Francisco, 1596-1659)著『日本殉教精華』ローマ、1646.(B-310) 所蔵情報
a-7.と同様の「日本布教地図」を収める。『日本殉教者名簿』『長崎殉教記』との合冊本。展示ページは、使節の一人、中浦ジュリアンの殉教図
b-24.
『七のさからめんと』写本(ハ600-72) 所蔵情報
江戸初期の排耶書『伴天連記』の異写本。本館のみ所蔵。
b-25.
『踏絵』写本(ハ600-85) 所蔵情報
踏絵の写し5図を収める。
b-26.
『天正年間遣欧使節関係文書』史学研究会、1929. 所蔵情報
大友宗麟、大村純忠、有馬晴信が、使節に託しヨーロッパに遣わした書状のうち3通の複製。昭和4年に京都大学がイタリアから購入した。本書はその複製。

c.キリシタン研究と南蛮趣味

  キリスト教の禁制が解かれた明治以降、キリシタンに関する歴史的な研究が始まった。
  明治末年にエキゾチックな詩情をたたえた白秋の詩集や、新村出のキリシタン研究が
  出版されると、きりしたんに寄せる関心は一般読者を巻き込んだ南蛮ブームにまで拡大し、
  異国情緒豊かな美装本が数多く出版された。
c-1.
クラッセ著(Crasset, Jean, 1618-1692)『日本西教史』博聞社、 1894. 訂正増補 [版].(ハ600-128) 所蔵情報
クラッセの原著は、1689年初版。本翻訳は1715年版に基づく。太政官翻訳局の訳により、明治11年(1878)に上巻、13年に下巻が刊行された。本書はその訂正増補版。
c-2.
北原白秋著『邪宗門』ほるぷ、1976.(易風社、1909. の複製) (911.56-Ki64) 所蔵情報
白秋の処女詩集。日本の近代文学に南蛮趣味をもたらし、大正から昭和に続く南蛮ブームの火付け役になった。 表紙の下隅にイエズス会の会章があしらわれている。装丁は石井柏亭のデザイン。
c-3.
新村出著『文禄旧訳伊曽保物語』開成館、1911. 所蔵情報
ヨーロッパ留学中にロンドンの大英博物館でキリシタン版『イソポのハブラス』を筆写し、帰国後に翻字したもの。
c-4.
新村出著『南蛮更紗』改造社、1924. 所蔵情報
学問的な内容であるが、詩情をたたえた文章は広く江湖に迎えられ、一年余りで十八版を重ねた。装丁は古渡りの更紗を復元した恩地考四郎のデザイン。
c-5.
新村出著『南蛮廣記』岩波書店、1925. 所蔵情報
『南蛮記』と『南蛮更紗』の増補版正続2巻。装丁は平福百穂のデザイン。
c-6.
新村出著『薩道先生景仰録』ぐろりあ そさえて、1929. 所蔵情報
同年に亡くなったキリシタン版研究のパイオニア、アーネスト・サトウの追悼録。
c-7.
木下杢太郎著『南蛮寺門前』春陽堂、1914.
キリシタンに想を得た杢太郎の処女戯曲集。箱絵と本文挿絵に杢太郎自筆画が使われている。装丁は F. クンプのデザイン。
c-8.
木下杢太郎著『えすぱにや・ぽるつがる記』岩波書店、1929. (ネ440-1) 所蔵情報
ヨーロッパ留学を終えた著者が、天正少年使節の事跡を巡り、南欧を旅した紀行集。紀行と外編(研究翻訳)の2部からなる。
c-9.
グワルチエリ著『日本遣欧使者記』岩波書店、木下杢太郎訳, 1933.(ハ600-157) 所蔵情報
使節に関する同時代の記録 b-10.の翻訳。
c-10.
濱田青陵(耕作)著『天正遣欧使節記』岩波書店、1931.
著者は考古学者。使節の事跡を紹介した情熱的な著作。巻頭には自ら入手した使節の肖像版画の複製を掲げる。
c-11.
幸田成友著『和蘭雑話』第一書房、1934.
ヨーロッパ留学中、ヴァティカンのスペイン大使館で撮影した『原マルチノの演説』の書影や、泉井久之助による同書の翻訳を収める。
c-12.
『新小説』第31年第7号(南蛮紅毛号)、春陽堂、1926. 所蔵情報
南蛮ブームの最中に発行された特集号。木下杢太郎、村上直次郎、新村出などの論文、随筆を収める。
c-13.
『珍籍展覧会目録 : 天正使節渡欧三百五十年記念』丸善,1932. 所蔵情報
丸善の古書展示会目録。キリシタン版『ぎや・ど・ぺかどる』をはじめ、関係史料178点を収める。

d.特別展示

d-1.
 「天正少年使節肖像」アウグスブルク,1586.
木版画手彩色。 使節の肖像は、当時の書物の挿絵や寺院の壁画等に断片的に描かれたものを除くと現在2種類が確認されている。本版画はそのうちのひとつ。 1930年(昭和5)に濱田耕作によってオランダの古書店から招来され、現在京都大学附属図書館で所蔵している。 右上で王冠を手にするのが正使(主席)伊東マンショ、左上で手袋を手にするのが、正使千々石ミゲル、右下が副使の中浦ジュリアン、左下が原マルチノ。 中央上方は使節に同行したメスキータ神父。
d-2.
 「リスボンの宮殿」アウグスブルク,17--.
銅版画手彩色。18世紀に流行した眼鏡絵。裏面に灯を燈すと夜景に変わる仕掛絵になっている。 天正少年使節は1584年8月11日にリスボン港に入り、同日夜、テレイロ・ド・パソ(宮殿の庭、画面右)に上陸し、ヨーロッパ大陸に記念すべき第一歩を印した。

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