『原マルチノの演説』. 訳文

 *注) 全訳は、泉井久之助訳「原マルチノの演述」: デ・サンデ(泉井    久之助[ほか]共訳)『天正遣欧使節記』雄松堂, 1969 (新異国叢書,    5)[210.5-Sh62-5] の巻末(pp. 699-712)に、付録として所収。 1. 標題紙: 日本人の原丸知野氏によって、 自身と同僚たちとの名において、 彼らが欧州から戻ったときに、 イエズス会の巡察使アレッサンドロ・ヴァリニャーノ神父に対して、 ゴアにて、聖パオロ学院で、 主の紀年の1587年6月4日に、 おこなわれた演説。 検察使たちおよび上長たちの許可のもとに、 ゴアにて、 日本人コンスタンチーノ・ドーラードが、 イエズス会の屋舎にて、 1588年に、 製作した。 −−− 2. 本文第一頁: 無益ではありませんでした、 いと尊き師父さま、 昔の人々が、美の三女神の極めて有名なあの絵を、 後世の人々に、あのように描いて残したことは。 彼女たちの顔には著しい悦ばしさを表現して、 そして手に手を重ねて、 彼女たち相互に再び寄り添いあっていく群像を、 表現しており、 その図像によって、 極く賢い人々や、いくらかの高い精神が備わった者たちは、 次のようなふたつの掟を、 格別に示そうとするであろうように、 そのように描いて。 そのふたつの掟とは、 恩恵が授けられ、また受け取られる際には、 遵守されるべきようなものであって、 ひとつには、 授与する者たちの顔は、悦ばしくあるようにということ、 もうひとつには、 恩恵を受け取った後には、 彼ら受け取った者たちは、 感謝の利子と共に、なるべく早く、 返済を果たすべきだということです。 あなたは実に、我々に対して、 このように大きな、また、すばらしい恩恵を、 施されました。 その恩恵の重さに、また、大いさに対しては、 (感謝の意を)じゅうぶんに表すことができるのは、 次のような思いを以ってより他にないと、 我々が思うほどの。 もし、あなた ただひとりに対して、 他ならぬ親たちに対してよりも、はるかに より大いなる理由を以って、 我々は感謝している、 と我々が表明したならば、 という思いを以ってです。 その親たちからは、 生命と精神とを、 我々は受け取っているわけですが。 というのも確かに、 もし、アレクサンドロスが、マケドニア人たちのあの帝王が、 彼は子供の頃に、 教えを受けるために、 アリストテレースに預けられましたが、 自分は、父フィリッポスに対してよりも、より少なからぬものを、 そのアリストテレースに、負っている、 というのも、父親からは、(単に)生きることの(開始を)、 師からは、良く生きることの開始を、 受け取ったのだから、 と語っていた(ということですが)、 (そういうことだとしたら、)我々は、なおさら より大いなる理由を以って、 あなたに対して、 快い魂の衷心からの 告白を述べることが、 正当なことなのです。 というのも、あなたは特に熱心に、 我々が、地球のあの部分(ヨーロッパ)に向かって、 使命を帯びて旅発つことを望まれたからです。 その場所からは、 かつは 良く生きることの典範を以って、 かつは 敬虔を尊ぶことの手本を以って、 あたかも泉から享受したものを以って、 両親から与えられたままの天性においては粗野な者も、 はるかにより麗しく、より優しく、かつ、より洗練されて、 戻ってくるような場所へ。