近世の出版文化

 江戸時代に入り社会が安定するにしたがい、まず上方を中心に、 それまでの仏典や漢詩文に限らず、源氏物語や平家物語などの文芸書から、 節用集や往来物といった実用書にいたるまで、 幅広い分野にわたる活発な出版活動が始まった。 また、書物の需要が飛躍的に増加するにともない、 一字ずつ活字を拾う活版印刷よりも、 より手軽で安上がりな木版印刷の版本が再び注目され、 出版の主流を占めるようになった。 江戸時代を通し約六千軒の出版業者、いわゆる板元が活躍し、 17世紀末の京都では、すでに一万点に近い書物が出版されている。
 江戸時代中期になると出版の中心は上方から江戸に移り、 多色刷り木版など、わが国独自の精巧な整版技術が工夫され、 高い水準の出版文化が生み出された。 一方、明暦3年(1657)に始まる幕府の出版規制は、享保、寛政、 天保と続く三度の改革で強化されたが、幕末の変動期になると、 規制の網をくぐり、黒船の来航や各地の災害などを伝える瓦版が出版され、 揺れ動く世相を風刺した。


『日本永代蔵』 

6巻6冊 井原西鶴著 貞享5(1688)年刊
 井原西鶴が天和2(1682)年に著した「好色一代男」以降約100年間、
上方を中心に浮世草紙と呼ばれる娯楽的な町人文学が流行した。
本書は30編の短編からなり、京・大阪・江戸など諸都市町人の金儲けの
成功談・失敗談などが描かれており、経済小説の先駆と言われる。


『遊子方言』  (PDF)

1巻1冊 〔丹波屋理兵衛作〕 明和年間(1765-70)刊
 遊客の遊里での遊びをえがいた、江戸洒落本の端緒となった会話体で書かれた作品。
以後会話体が洒落本の主流となった。丹波屋理兵衛は出版業者であるが、
そのかたわら著述もしていた。本書は別に多田屋利兵衛作とする説もある。


黄表紙6種 

江戸時代中期から明治にかけて刊行された絵入りの通俗小説を総称して草双紙といい、
その展開過程により赤本・黒本・青本・黄表紙・合巻などと呼ばれる。
1冊5丁で1巻の形態をとり、各丁は挿絵が主で、余白に平仮名の文章が書き入れられる。
展示は『金々先生榮花夢』(きんきんせんせいえいがのゆめ)
安永4年(1775)江戸・鱗形屋孫兵衛刊本の複製はじめ6種。『金々先生榮花夢』は
黄表紙の先達と言われる恋川春町の作。
出世をしようと江戸へ出てきた田舎者金村屋金兵衞を主人公とする物語で、
謡曲『邯鄲』を翻案したものである。


『白縫譚』(しらぬいものがたり) 

90編 柳下亭種員・柳亭種彦(二世)〔笠亭仙果〕作・校
 歌川豊国(三世)・歌川国貞(二世)・歌川芳幾ほか画
嘉永2(1849)〜明治18(1885)刊
江戸後期の草双紙を合巻(ごうかん)と呼ぶが、本書は合巻中の最大長編。
幕末から明治にかけて数人の作者により書き継がれ、絵師も複数にわたる長編伝奇小説である。
黒田家のお家騒動と天草の乱の実録を基底に、『女仙外史』の趣も取り入れ、
幕末におおいに流行した。当館では初編から31編を所蔵する。


『外蕃容貌圖畫』(がいばんようぼうずえ) 

2巻2冊 田川春道著 嘉永7(1854)年刊
 本書は、世界5大州の44箇所について、右頁にその国の人の風俗を彩色画で描き、
左頁に地理や風俗上の特色を述べたものであるが、
図そのものは、西川如見が享保5(1720)年に出版した『四十二国人物図説』のものと、
半数以上は同じである。本書の刊行された嘉永7年はペリーが来航して日米和親条約を調印した年であり、
こうした世情を反映して外国の風俗を描いた書物がこの頃多数出版されている。


『諸国温泉名湯一覧』

(『松乃寿 春』より)

『諸軍談講訳読物評定』

(『梅乃寿 四編』より)
 番付は、相撲や歌舞伎の興業から江戸期に発生したものであるが、
この形式を借りて様々な見立番付が作り出された。
本来は1枚ずつ売り捌かれたもののようであるが、冊子に仕立てて販売されたものもある。
ここに挙げたものはいずれも幕末期のものとみられるが、
当時の民衆の価値判断の一端が垣間見られるようで面白い。


鯰絵  

江戸末期摺
安政2(1855)年10月に江戸を襲った大地震は大きな被害をもたらしたが、
この安政大地震を契機に出版された鯰をモチーフとする浮世絵版画を一般に「鯰絵」と呼んでいる。
描かれた内容は多様であるが、地震を起こした鯰に対する懲らしめを装いながらも、
職人たちにとって鯰は復興景気によって世直しをもたらす存在として描かれるなど、
災害という非日常の中での地震に対する庶民感情の変化を反映したものとなっている。
当館では2枚続きのもの1種を含め、22種23枚の鯰絵を所蔵している


『蟲譜圖説』 

12巻12冊 飯室庄左衛門〔昌栩〕著 安政3(1856)年序 写本
 日本初の体系的な虫類図説で、虫類約600種を掲載している。
飯室庄左衛門は旗本で、赭鞭会(しゃべんかい)という、大名及び幕府関係者を会員とする
アマチュア博物同好会で活躍した。
貝類の研究で有名な武蔵石寿とともに、幕末期における動物研究の双璧とされる。


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Last updated: 2011/02/08