1.学制発布と明治初頭の教科書

 わが国における近代の学校教育制度は、明治5年8月の「学制」の発布に始まる。「学制」は明治政府が定めた学校制度や教員養成に関する基本的な規定である。初等教育については、国民のすべてが就学すべきことを定め、発布から数年間に全国で2万校以上の小学校が整備され、約40%の就学率が達成された。
 文部省では学制発布の翌9月に「小学教則」を交付し、小学校における具体的な教育内容を提示した。当時はまだ教科書の編纂事業が充分に進んでおらず、「小学教則」に示された小学校用の教科書は、民間の出版物が大半を占めた。しかしその内容は、それまで寺子屋で使われていた往来物を排し、福沢諭吉や箕作麟祥など、文明開化に指導的な役割を果たした啓蒙家の著書・訳書を採択するなど、合理主義的な思想に基づき教育の刷新を計ろうとする意欲的なものであった。
 また教育方法も改まり、寺子屋での個別教育に代わり、学年別の一斉教育が行われ、今日の授業スタイルが作られた。


1)学制発布


1-1 「学制」(宮ホ610-45)

明治5年8月に下付された学校教育に関するわが国で最初の法令。小学(8年)、中学(6年)その上の大学の段階を定め、小学校は国民すべてが就学するものとした。


1-2 「学制一覧」長冰編(宮ホ610-49)

学制の内容について判りやすく解説した実施要項。編者の長冰(長三州)は学制起草委員のひとり。


1-3 「小学教則」文部省編(宮ホ610-58)

学制に基づき小学校の教育課程を定めたもの。各級ごとに、各教科の標準的な教科書や授業内容を示す。明治5年刊。


2)「小学教則」の標準教科書

 学制によって全国民の小学校就学が定められたが、発布当時はまだ教科書が整備されていなかったため、民間で出版された啓蒙書や翻訳書が各教科の教科書として用いられた。「小学教則」に示された標準教科書のなかから、主なものを以下に挙げる。なお、それぞれに等級と教科名を記したが、当時の小学は、下等小学(半年毎に下級の8級から上級の1級まで4年間)と上等小学(同4年間)の8年制であった。


1-4「絵入智慧の環」古川正雄(宮ヘ950-222)

下等第 8-7級綴字標準教科書。ひらかなの単語をいろは順に並べ、絵と漢字を添えて解説。初編上下明治3年刊。


1-5 「ちえのいとぐち」古川正雄(宮ヘ100-271)

下等第 8-7級綴字標準教科書。 1-4の簡略な姉妹編。短い例文を添える。明治4年刊。


1-6 「童蒙をしへ草」チャンブル著、福沢諭吉訳(宮ロ580-722)

下等第 8-7級修身口授標準教科書。原著はイギリス人チェンバース(Robert Chambers)のモラル・クラッス・ブック(The Moral Class-Book)。代表的翻訳道徳書。明治5年刊。


1-7 「世界商売往来」橋爪貫一(宮ル185-313)

下等第7級単語読方標準教科書。江戸時代の往来物の系譜をひく教科書。絵入りで単語を紹介し、上段に簡単な英訳を付す。明治4年刊。


1-8 「啓蒙智慧の環」瓜生寅訳(宮ヘ950-232)

下等第6級読方読本標準教科書。科学的な知識を中心とした翻訳の読本。明治5年刊。


1-9 「泰西勧善訓蒙」箕作麟祥訳(宮ロ580-719)

下等第6級修身口授標準教科書。フランス人ボンヌの著作に基づくとされるが原本は不詳。明治4年の前篇3冊が普及。


1-10「学問ノススメ」福沢諭吉(宮ロ580-739,740)

下等第6級読方読本標準教科書。平等の理念や自由独立の気風を説いた明治初年の代表的啓蒙思想書。明治5年から9年にかけて17冊が刊行され、13年に合本版が出た。原題は「学問のすゝめ」。偽版も含め各種の版本がある。


1-11「天変地異」小幡篤次郎(宮テ100-22)

下等第5級読方読本標準教科書。自然現象に関する迷信を排し、その原理を科学的に説明した啓蒙書。著者は福沢諭吉の高弟。明治元年刊。


1-12「世界国尽」福沢諭吉(宮ネ900-41)

下等第 4-2級地学読方標準教科書。江戸時代の数え歌や地名尽しの口調に倣い、七五調で世界地理を解説した入門書。5巻5冊に付録1冊を付し明治2年刊。


1-13「窮理図解」福沢諭吉(宮テ000-34)

下等第 3-1級理学輪講標準教科書。実利を目的とし、一般向けに物理学の原理を図解した入門書。初篇明治元年刊。


1-14「西洋新書」瓜生政和(宮ネ900-55)

下等第 2-1級読本輪講標準教科書。初篇明治4年刊。


1-15「西洋事情」福沢諭吉

上等読本輪講標準教科書。幕府遣外使節団に加わり欧米各国を歴訪した筆者による文明論の名著。初篇慶応2(1866)年刊。


1-16「五洲紀事」寺内章明訳(宮ヨ850-29)

上等史学輪講標準教科書。グートリッチの「万国史」を原典とする。初篇明治4年刊。


1-17「与地誌略」(宮ネ900-50)

上等地学輪講標準教科書。マッケー、ゴールドスミス等の原本の抄訳に基づく世界地誌。明治3年から7年にかけて刊行され広く普及した。


1-18「博物新編訳解」大森秀三訳(宮テ000-38)

上等理学輪講標準教科書。イギリス人合信(Benjamin Hobson)が中国人向けに漢文で著した「博物新編」を和訳したもの。内容は物理学、天文学、動物学等、多岐にわたる。巻1は慶応4年刊。


3)卒業証書


1-19 小学校卒業證書(宮ホ200-283)(ホ200-611,612)


4)軸物(1)


1-20「太政官布告第214号」(宮ホ200-307)

明治5年の学制発布の際、政府の教育方針を一般に知らせるために発せられた布告。


1-21「児學教導単語之図」(錦絵9枚、明治初期)軸装(宮ヘ950-203)


1-22「博物図」(複製、唐沢富太郎「教育博物館」より)


5)文部省発行錦絵


1-23「立版古(洋風馬車)」文部省製本所


1-24「立版古(児童遊戯)」文部省製本所


1-25「おもちゃ絵(洋風着替人形)」文部省製本所


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Last updated: 2012/02/22