小犬に倒(たほ)され多年勉強して測量
せし稿紙を一朝灰燼となしたり
是に由て大にその体気(からだのき)を傷り解悟(げしさとり)の
力も衰減せりと云ふ又其著はせる一冊の
写本を客堂(ざしき)の地板に置しを下婢誤て
廃紙と思ひ火中に投しける加来爾(かあらいる)
痛惜すれども為へきやうなく再び
筆を把り記臆中より捜り出し
草稿を属したり
此書を編著せしは得意の
事なりしが再次の属草(したがきをせる)は
其労苦惨痛大かたならず然れとも
遂に堅定の志に由て成就したりけり