5.幻灯


 明治13年に文部省は、各府県の師範学校に対し、奨励品の名目で教育用の幻灯を頒布した。当初は外国製の機器が予定されたが、費用の関係で国産のものに変更となり、鶴淵初蔵と中島真乳の両名が制作にあたった。当時の幻灯は、照明に石油ランプを用い、幻灯板はガラス板に手描きしたものが使われた。幻灯は明治20年代から30年代にかけて、初等教育の現場はもとより、一般の娯楽として大流行し、各地で幻灯大会が開かれ、専門の弁士まで現れた。

宮木文庫に収められている「教育必要幻灯振分双六」(大判錦絵6枚続き、明治22年)は、そうした幻灯流行期の雰囲気を伝える錦絵双六である。またタイトルに「教育必要」と銘打たれ「鶴淵初蔵案」とあるところから、この錦絵の絵柄は文部省が頒布した幻灯によるものと推定される。絵柄は「ワシントン」や「小野道風」などの偉人を扱ったものや、「孝行尽」や「清潔にする」といった児童の日常生活に関するものなど、初等教育にふさわしい内容となっている。

 今回の展示では、この「教育必要幻灯振分双六」に描かれた28コマをスライドに転写し、当時の幻灯の模様をうかがわせようとする。


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