ごあいさつ

 いつの時代も文明や文化を発展させる原動力は、人々の創造力であります。
 創造力とは、豊かなイマジネーションと先見性を持って、新しいアイデアを生み出す力のことです。紀元前3世紀シラキュースに住んでいたギリシャの科学者アルキメデスは創造人の元祖です。彼はある時、王様に頼まれて、金の王冠の中に銀や銅などほかの金属が含まれているかどうかを検出する方法を探していましたが、そのためには王冠の体積さえ分かればよいのです。彼は浴場での偶然の観察からその方法を見出した時、裸で町に飛び出して「ユーリカ、ユーリカ(わかった、わかった)」と叫んだそうです。発見の歓喜と興奮を隠せなかったのでしょう。誰しも、何らかのインスピレーションによって、思いもよらない発想に出会い、眼から鱗が落ちたような経験をすることがあります。それは創造力の発露によるものです。
 筑波大学は昭和48年に新構想大学として創設されて以来、様々な分野、特に学際的、先端的研究分野において創造的な活動を行い、多くの成果をあげていることはご案内のとおりです。しかしまた、その前身は、120 年以上の歴史をもつ我が国最初の師範学校であり、我が国の近代化の過程に大きな貢献をしてきたこと、そして、その系譜が現在に生き続けていることをも誇りにしております。
 今回、筑波大学附属図書館の持つ明治初期の近代教育黎明期の貴重な資料を覧てみますと、西洋の新しい事物にふれて、それを如何に我が国の文化の中に織り込むかに工夫を凝らし、立派な成果を収めていった、先人達の息吹に深い感嘆の念を禁じえません。
 21世紀を目前に控え、文化の進歩と発展に貢献する若き創造力の育成に心を注いでいきたいものと思います。
 本日はどうぞごゆっくりご覧ください。

平成9年8月
筑波大学長 江崎玲於奈


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