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III. 明治を拓いた名著

34 『安政見聞誌』

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 安政2(1855)年10月2日午後10時ごろ、江戸で発生した大地震のルポルタージュ。書肆の注文で渓斎英泉門下の英寿の助筆を得て三昼夜で脱稿した。折り込んだ繁華な江戸の町の裏面に災害により湮滅する図が配される工夫がなされており、リアリスティックな図様に戦慄を禁じ得ない。際物作者仮名垣魯文の才が際だった作である。無許可出版であったため版元と英寿は手鎖の刑に遭ったが、魯文の署名がなかったため彼は難を免れたという。

35 『義経一代記画譜』

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 源義経の生涯を代表的な伝承の一場面を繋いで綴った画譜。歌川広重(初代)の絵が中心で、魯文はその場面のキャプション風の短文を綴っている。選ばれた場面は、おもに江戸期の伝承や演劇に拠っている。たとえば第三場面は、菊畑で皆鶴姫の前で歌舞伎役者さながら見得を切る牛若丸が描かれている。歌舞伎「鬼一法眼三略巻」菊畑の場である。幕末から明治初年に掛けて魯文はこのような生活のため売文的な戯作を量産していた。

36 『仮名読八犬伝 28~31編』

 所蔵情報(28~29編)   所蔵情報(30~31編) 

 滝沢馬琴『南総里見八犬伝』を毎葉絵入りでひらかなばかりでダイジェストした合巻本。初編から十六編までの為永春水、十七編から二十七編までの鳳簫庵琴童を引き継いで、二十八編(慶応二1866年)から三十一編(明治元1868年)までが魯文の作。資料35と同様、生活のための売文作で、他作家の作をリレー式に引き継ぐという非個性的な仕事である。

37 『西洋道中膝栗毛』

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 滑稽小説。十二~十五編は友人総生寛が後を継いだ。『西洋事情』『西洋旅案内』『輿地誌略』やフランス帰りの知人富田砂燕の体験談を下敷きに、内容、形式ともに十返舎一九『東海道中膝栗毛』を踏襲し、初代孫の弥次郎兵衛、北八が横浜の商人の供をしてロンドンの博覧会見物に行く滑稽な道中記に仕立てる。江戸戯作の伝統を継ぎ、随所に読者を飽きさせない趣向をこらしている。開化の風に乗って爆発的な人気を博した。

38 『西洋料理通』

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 西洋料理書。横浜に居留していたイギリス人が日本の傭人に料理を命ずるときの手控え帳を種本として、魯文が明治5(1872)年に編集出版した。料理材料は英語、オランダ語と訳語で書いている。第一章のスープの作り方から始まって、魚料理、肉料理、野菜料理、菓子の作り方まで八章あり、110項目にわたって料理法が記載されている。魯文の万事こだわりのない開化主義者としての側面が如実に表れた書である。

39 『世界都路』

 所蔵情報(高精細画像あり)  

 百科全書的地理書。「一(二)之巻亜細亜洲」「三之巻欧羅巴洲」「四之巻阿非利加洲」「五之巻北亜米理加洲」「六之巻南亜墨利加洲」「附澳太利洲」(巻1巻頭「世界都路目録」の表記による)からなり、各巻頭に色刷りの地図を掲載し、上段に散文による説明、下段は上段の散文内容を七五調に仕立てた本文からなり、寺子屋の教科書風に暗唱に適した形態となっている。そのため翌明治6(1873)年、文部省によって教科書として適切な書籍として例示されることとなった。

40 『西国立志編, 原名自助論』

 所蔵情報(高精細画像あり)

 幕府の儒者であった中村正直によるスマイルズ原著『自助論』の全訳。自立した市民たちが奮闘するエピソードが圧倒的な読者の共感を呼び、開化期のベストセラーとなる。中村正直が本書を翻訳したのは、第一編序にあるように、「人民が自主の権を有する」ことが「西国の強さ」の拠るところであるとする思想に共鳴したことによる。明治10(1877)年に刊行された洋装・活版の合冊本『改正西国立志編』(参考展示)は、金箔押しのタイトル・ピースをもつ背革装本で、背文字が入った本としてはきわめて古いものである。

41 『Self-help, with illustrations of conduct and perseverance』

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 正直の翻訳の底本は現在不明だが、ロンドンのJohn Murray社から1860年以降出版された版の一本であろう。本学には、1876年版を蔵している。

42 『花柳春話』

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 明治初期の代表的な翻訳小説。イギリスの政治家 E.G.ブルワー=リットン卿『アーネスト・マルトラバーズ』とその続編『アリス』を丹羽純一郎が抄訳したもの。上流階級出身の主人公アーネストと庶民の家に生れた女主人公アリスが相思の間柄となり、多くの障害を乗越え、めでたく結ばれるという教養小説である。原作は傑作というほどのものでないが、西洋小説の最初の本格的な翻訳紹介として清新な感動を与えた。丹羽純一郎は三条家用人の子で、明治3(1870)年英国に留学した。
 装丁はきわめて早い時期の洋装本で、舶来のクロースで切り返した四六判だが、表紙は四周額縁で、罫線で三分割し中央に表題、左右に作者名と刊記とを振り分ける和装本の袋紙の意匠を踏襲するもので、いわゆる「南京綴じ」である(908-Me25複製本参照)。附録も含めて5分冊であったが、本館蔵本はそれを合冊している。

43 『Ernest Maltravers』

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 『花柳春話』の原著。初版は1837年刊行で、本館蔵本は1940年の序文を有する、著者校閲本と銘打った、ロンドンのラウトレッジ社Routledge's sixpenny novels双書の一冊。刊行年不明。著者ロード・リットン(1803~1873年)は、ロンドン生まれで、政治家であるとともに多くの小説を書いた。『ポンペイ最後の日』(1834)は映画化もされた。リットン調査団団長のヴィクター・ブルワー=リットンは孫に当たる。

44 『Alice, or, the mysteries』

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 “Ernest Maltravers”刊行の翌年1838年初版が刊行された続編。『花柳春話』はこの続編も含めて抄訳している。著者校閲本とするラウトレッジ社Routledge's 6d. edition of Lord Lytton's novelsとして出版された著作集の1冊。刊行年不明。

45 『三酔人経綸問答』

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 政治哲学書。単行本として刊行されるに先立って、冒頭部分が徳富蘇峰の主宰する「国民之友」第3号の特別寄書欄に「酔人之奇論」として掲載された(パネル参照)。寄稿前夜の蘇峰の回想として、井上毅邸にふたりで赴き本書の原稿を井上に見せたことが語られており、井上が「面白いが万人受けはしないだろう」と感想を語ったという。本書はこれまでの名著に比して当時において読まれることは少なかったが、今日においては人民、国家、政治を論じる古典的名著と言える。

46 『航西詩稿』

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 近代仏教学・梵語学の先駆者、南条文雄(嘉永2〈1849〉年~昭和2〈1927〉年)の渡英のさいの行旅詩集。明治9(1876)年6月に日本を発ち、サイゴン、シンガポール、インド洋、スエズ運河を経て地中海に至り、マルセイユ・パリ経由で8月にロンドンに到着する。明治17(1884)年に帰国の途につくまで、オックスフォード大学でサンスクリット仏典の研究を行う。その間の感慨を詠じたもので、同じ経路を辿る『西洋道中膝栗毛』の描写とは対照的である。

47 『絵入鹿児島征討全記』

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 開戦直後から刊行された最初期の西南戦争報道の実録本のひとつ。出版御届は明治10年2月22日。第1号では、1月29日に陸軍の赤龍丸が武器移動を目的に鹿児島入りし私学校の暴動に発展した経緯から、2月19日に有栖川宮二品親王を総督とした逆徒征討の勅命が下り官軍が出兵するまでを記す。各段落の最初にある「○」は新聞紙面の雑報を意識したもの。活版印刷だが、素朴なスケッチ風の木版絵入り。全26号。本学では第1~10号、11~20号の合本2冊を所蔵。

48 『鹿児島追討記』

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 『絵入鹿児島征討全記』同様、出版御届は明治10年2月22日。開戦直後から刊行された実録本のひとつ。簡素な製本に報道優先の思想がうかがえる。巻1末尾に「引用書目」として『朝野新聞』『東京日々新聞』『大坂新聞』など新聞8紙をあげている。表紙に朱字で予告が見えるが、巻2(第二篇)および以降の口絵に、関連の地図や絵が彩色木版画で付されている。古海は、この反乱は私学校の「少年輩」の「過激ノ頑固党」が起こしたのだと述べ、西郷個人や不平士族たちと峻別し、「暴徒」を痛烈に批判している。巻1~18まで確認できる。本学では巻1~6をおさめた合本1冊所蔵。

49 『鹿児島戰争記 2~7編』

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 物語性の強い草双紙タイプの実録本の1つ。私学校の設立と生徒の暴動にはじまり、城山での西郷の最期までを、『東京日日新聞』『郵便報知新聞』等をもとに語っている。(二世笠亭)仙果、本名篠田久二郎は他に10種近くの西南戦争ものを刊行している。挿画は当時光線画で注目を浴びていた小林清親。「新政厚徳(新しい政治による世直しの意)」を掲げ進軍する軍服姿の西郷像は、錦絵でも人気の構図だった。全12編12冊。本学では2~7編の6冊を所蔵。

50 『安政自巳至未襍記』

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